労務管理のポイント その1
労務管理の基本は労働基準法です。そこで、ここに労働基準法及び同法施行規則の主な条文等を紹介します。
- 1.契約期間等(労基法第14条)
- 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(専門的知識等を有する労働者や、満60歳以上の労働者の場合には5年)を超える期間について締結してはならない。
〈有期労働契約の締結、更新、雇止めについて〉
- 使用者は、有期契約労働者に対して、契約の締結時にその契約の更新の有無を明示しなければならない。
- 使用者が、有期労働契約を更新する場合があると明示したときは、労働者に対して、契約を更新する場合又はしない場合の判断基準を明示しなければならない。
- 使用者は、有期労働契約の締結後前記1又は2について変更する場合には、労働者に対して速やかにその内容を明示しなければならない。
- 使用者は、有期労働契約(あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除き、かつ、1年を超えて継続して雇用されている労働者に限る。)を更新しない場合には、少なくとも契約期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。(雇止めの予告)
- 2.労働条件の明示(労基法第15条、労基法則第5条)
- 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面により明示しなければならない。
<書面交付による明示事項> ※「労働条件通知書」等の書面の交付により明示する。
- ① 労働契約の期間に関する事項
- ② 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- ③ 始業、終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関にする事項
- ④ 賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期に関する事項
- ⑤ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
<口頭の明示でもよい事項>
- ① 昇給に関する事項
- ② 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払いの方法、支払いの時期に関する事項
- ③ 臨時に支払われる賃金、賞与等並びに最低賃金額に関する事項
- ④ 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
- ⑤ 安全及び衛生に関する事項
- ⑥ 職業訓練に関する事項
- ⑦ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- ⑧ 表彰及び制裁に関する事項
- ⑨ 休職に関する事項
- 3.解雇のルール(労基法第18条の2)
- 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
<参 考> 整理解雇(経営上の理由により人員削減のための解雇)の四要件
- ① 経営上人員削減の必要性があること
企業が倒産寸前の状況など、人員削減をしなければならないほどの経営危機であると認められること。 - ② 解雇回避の努力義務がつくされていること
配置転換、出向、希望退職の募集、賃金の引き下げ等、他の手段により整理解雇を回避する努力を企業が尽くしたこと。 - ③ 被解雇者の人選基準が合理的で公平であること
勤務成績、勤続年数などの企業の貢献度等選定基準が合理的で、公平な運用が行われていること。 - ④ 解雇手続きの妥当性
整理解雇の必要性等を労働者、労働組合と十分に説明し協議をし尽くしていること。
以上の四要件のうち一件でも満たさなければ解雇権の濫用となり、解雇は無効となる場合がある。
- ① 経営上人員削減の必要性があること
- 4.解雇の予告(労基法第20条)
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- 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
- 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
- 5.賃金の支払い(労基法第24条)
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- 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(途中省略)また、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。(所得税、社会保険料等法令により定められたものは除く)
- 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
- 6.休業手当(労基法第26条)
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- 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当てを支払わなければならない。
- 7.労働時間(労基法第32条)
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- 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
- 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
- 8.休憩(労基法第34条)
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- 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を労働時間の途中に与えなければならない。
- 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
- 使用者は、休憩時間をに自由に利用させなければならない。
- 9.休日(労基法第35条)
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- 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。
- 前項の規定は、4週間を通じて4日以上の休日を与える使用者にはついては適用しない。
<振替休日と代休の違い>
・振替休日
- 休日労働をさせる必要が生じたとき。
- 就業規則に振替休日を規定する。
- 4週4日の休日を確保したうえで、振替日を特定する。
- 使用者は振替後の休日を指定し、遅くとも前日までに労働者に予告する。
- 振替休日が同一週内の場合、休日出勤日は通常の賃金を支払えばよく、振替休日には賃金の支払いは不要。
但し、振替休日が週をまたがった場合で週の法定労働時間を超えて労働させた場合は、時間外労働に係る割増賃金の支払いが必要となる。
・代 休
- 休日労働させた場合、その代償として他の労働日を休日とするとき。
- 代休日は、使用者が指定するか労働者の申請により与える。
- 休日出勤日に割増賃金の支払いが必要。
- 10.時間外及び休日の労働(労基法第36条)
- 使用者は、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定を締結し、事前に所轄の労基署長に届け出れば、その協定で定めるところにより労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
- 11.時間外、休日、深夜の割増賃金(労基法第37条)
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- 使用者は、法定労働時間を延長し、又は法定休日に労働させた場合は、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内で計算した割増賃金を支払わなければならない。
- 深夜割増は、午後10時から翌日午前5時まで(厚生労働大臣が必要と認めた場合は午後11時から翌日午前6時まで)の時間帯に労働させた場合は、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
- 割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は参入しない。
ただし、中小企業については、当分の間、法定割増賃金率の引き上げは猶予されます。
※法定時間外労働割増率・・・2割5分以上、法定時間外労働が深夜時間帯に入った場合の割増率・・・5割以上
法定休日労働割増率・・・3割5分以上、法定休日労働が深夜時間帯に入った場合の割増率・・・6割以上 - 12.年次有給休暇(労基法第39条)
- 雇い入れ日から起算して6カ月間継続勤務した労働者に対して、継続、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
※年次有給休暇の付与日数(週所定労働時間が30時間以上の労働者)
継続勤務年数 付与日数 0.5年 10日 1.5年 11日 2.5年 12日 3.5年 14日 4.5年 16日 5.5年 18日 6.5年以上 20日 ※パートタイマー等週所定労働時間が30時間未満の者は、その所定労働日数に応じて厚生労働省令で定める日数を与えなければならない。
※年次有給休暇を取得した者に対して不利益な取り扱いは禁止。
※会社には、年次有給休暇の時季変更権は認められている。 - 13.労働時間等に関する規定の適用除外(労基法第41条)
- 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者、監視又は断続的労働に従事する者で行政官庁の許可を受けた者は、労働時間、休憩、休日に関する規定は適用しない。
- 14.最低年齢(労基法第56条)
- 使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない。
- 15.年少者の証明書〈労基法第57条〉
- 使用者は、満18歳に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。
- 16.未成年の労働契約〈労基法第58条〉
- 親権者又は後見人は、未成年者に代わって労働契約を締結してはならない。
- 17.18歳未満の年少者の労働時間等〈労基法第60条、第61条〉
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- 年少者は、原則変形労働時間制により労働させたり、時間外または休日に労働させることはできない。
- 年少者を、午後10時から午前5時までの深夜時間に使用することは原則禁止されている。
- 18.産前産後〈労基法第65条〉
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- 使用者は、6週間〈多胎妊娠の場合は、14週間〉以内に出産予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
- 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合においてその者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない。
- 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
- 19.育児時間〈労基法第67条〉
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- 生後満1年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
- 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
- 20.療養補償〈労基法第75条〉
- 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
- 21.休業補償〈労基法第76条〉
- 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。
※その他、使用者は、障害補償〈労基法第77条〉、遺族補償〈労基法第79条〉、葬祭料〈労基法第80条〉等支払わなければならない場合がある。
- 22.他の法律との関係〈労基法第84条〉
- この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
- 23.就業規則の作成及び届出の義務〈労基法第89条〉
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、法定事項について就業規則を作成し、所轄労働基準監督署へ届け出なければならない。
- 24.作成の手続(労基法第90条)
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- 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならない。
- 使用者は、前条の規定により届出をなすについては、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
- 25.制裁規定の制限(労基法第91条)
- 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
- 26.法令等の周知義務(労基法第106条)
- 労働基準法及びこれに基づく命令の趣旨、就業規則等を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
- 27.記録の保存(労基法第109条)
- 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。
労務管理のポイント その2
ここでは、労働契約法について主な条文を紹介します。
- 1.労働契約の原則(第3条)
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- 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
- 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
- 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
- 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
- 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
- 2.労働契約の成立(第6条)
- 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
- 3.(第7条)
- 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
- 4.労働契約の内容の変更(第8条)
- 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
- 5.就業規則による労働契約の内容の変更(第9条)
- 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
- 6.(第10条)
- 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。 - 7.就業規則違反の労働契約(第12条)
- 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
- 8.(第17条)
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- 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
- 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。